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海の中と見紛う程の、
一面の 蒼。

「此れは…」

言葉に答え、呼び声に応え
瞳を開けた付喪神は、其の光景に息を呑んだ。
遥か高い天井から吊り下げられた、大小様々な球体。
其の上を彩る蒼色には、光が散るような模様が描かれている。
円形の部屋には、重たげな扉はあるものの、窓らしきものは見当たらない。
壁に掛けられた釣鐘草のような模造の花が、恐らくは必要最低限の、明かりを部屋に与えている。
其の灯りに照らされた、奇妙な柄の壁紙。注視すると、其れは書物のようだと分かった。
重厚な机の奥に、豪奢な椅子。机上には数本の硝子製の筆やインク壺、雑多に広げられた紙類、其れに薄い奇妙な板があったが、其の役割は彼には分からない。
足元に目をやると、毛足の短い絨毯が、まるで夜空の上に人を立たせるように広がっていた。

「何とも……美しいね…」

溜息のような音が、喉から漏れる。
まったく無意識な独り言のつもりだったが、しかし答える声があった。


『成る程。わたくしの目に狂いはなかったと、そういうことだな』

はっきりと、しかし落ち着き払った……少年、だろうか。女性の声とも受け取れる。
ぐるりと辺りを見回したのは、声の主、そして此処に自分を顕現させたと思われる、そう、此れから仕えるべき主の姿が何処にも見当たらなかったからだ。

『主さま、声が!』
『分かっている。……ああ、済まんが今手が離せなくてな。焼成を始めたら其方へ行くから暫し待っていて貰えんか』

驚きながらも、分かったと言って頷くと、やはり声は届いている様だった。
『部屋の物には触れぬよう』ーーー忠告を、いや、此れが最初の"命"に当たるのだろうか。聞き入れて大人しく待っていると、ひどく重たげな見目とは裏腹に、軽やかに、するりと流れるように扉が開いた。
そして今一度、目を瞠る。

「待たせたな」
「いや、君が…その、」
「ん?ああ、背の高い成人男性が来るとでも思ったか? よく言われる事だが、済まんな。貴殿を待たせたのはわたくしだ」

驚いた。素直に、驚いた。
飾り気のない白い洋服を頭から被った其の人間は、自分の半分ほどの身丈しか無さそうな幼子だったのだ。
それが、あの声の主だったのだ。
彼、或いは彼女が口を開けば、先程の姿なき声と同様のものが紡がれる。

「一体…何をしていたんだい?」
「いや、何。折角貴殿を迎えるのだ。歓迎会でも開こうかと思ってな。……此処にはわたくししか居らんが」
「其れは……光栄だね」
「要らぬ世話だったか。まあ、何れにせよ食事は必要だ。少なくともわたくしの生命活動を維持する為には不可欠、つまり貴殿が顕現し続ける為にも不可欠だ。付き合って貰うぞ。……と、言いたいが、如何せん先程から其処の管狐が喧しい。先に其方に付き合ってやろうと思うのだが、貴殿は如何か」
「僕の主は君だ。主たる君が言うのなら、喜んで相伴に与るよ」
「結構だ。では其処の……こんのすけ、といったか。貴公の話を聞いてやろう」

そう言うと、主は飛び乗るように革張りの椅子に腰掛けた。
促され、改めて「こんのすけ」と名乗った管狐が此れもまた流暢に話し出す。

随分と、興味深い所へ送られたものだ。と、
彼は胸中で呟いた。

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