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「……まだ、悩んでいるのか」
 
縁側に腰を下ろし、細長い紙と筆を玩ぶ姿に声を掛ける。もう日が変わると付け足すと、「分かってるよ」と彼は答えた。
聞き慣れた、何処となく生意気な声音。
恐らくは堰を切ったように溢れ出すであろう、文句を聞くために横に座る。
 
「大体さ、」
 
彼の言葉の端々に、ほんの一言、二言、三言。
淡白な、少なくとも時折そう評される相槌を混ぜながら、止め処ない愚痴に耳を貸す。
嫌悪感を抱いたことはない。
 
「べつにこんなの、書かなくたって」
 
その愚痴は、評価の証だ。
彼の家族を、彼の生を、今を、
満たされていると、評価しているが故の。
 
「僕はお前がいればいいし」
 
彼の守り刀である、自分を、
 
「鯰尾とかはさ、『じゃあずーっと一緒にいられるように、お願いすれば良いじゃないですか』とか言うけど」
「…駄目なのか?」
「要らないだろ」
 
信ずるに値すると、評価している其の証。
 
「そうだな」
「骨喰は?」
 
若草に似た色の大きな瞳が、興味深そうに瞬いた。
何の話かと首を傾いで答えると、「何、書いたの」と同色の爪が短冊を指す。
すっかり失念していた其れを見て、思わず「ああ」と声を上げた。
 
「九繰が、無茶をしないようにと」
「書き直せ」
「……冗談だ」
 
信じられないと言いながら、下駄を突っ掛けて飾られた笹に手を伸ばす。
低い所に下がっているのは、其の殆どが短刀の。二枚、三枚と書き付けた者もいたようで、枝は重そうにしなっている。
徐々に伸ばされていく、未だ幼い主の腕。
ぴんと伸ばした其の指先は、いつか、恐らくは程なくして、自分の其れを越えるのだろう。
履いた下駄から踵を離し、天を仰ぐように、首を反らせて、
 
「………見つかんない」
 
不満げな呟きが、耳に届いた。
 
「当然だ。俺も書いていない」
「先に言え!」
 
乱暴に砂利を踏みながら、腹を立てても、しかし律儀に戻って来る。
何時も。
其方が此の身を手放せば、……恐らくは、考えた事も無いのだろう。
一度たりとも。其れこそが、
 
「俺の願いは、此の手に叶えられている」
 
此の頼りない幼子の、しかし誰よりも強い主君たる彼の、
守り刀で在ることが。
其の手に、活かされていることが。
今唯一の望みなのだと。
 
「……じゃあ、もうこれ書かなくて良くない?」
 
縁側に残された白紙の短冊。其の横に筆を並べて置くと、終わり終わり、と肩を回して
 
「骨喰、散歩行こう。見つかったら面倒臭いからさ」
 
出会った頃より随分と、大きくなった手が差し出される。
分かった、と頷いて、慣れた温かさを握り返した。

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