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○ どちらが兄で弟なのかは分からないし正直どうでもいいよねって思ってる双子。双方共にブラコンの気がある。

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○ 最早いつの時代の人間だったのかは分からない、「死人」を自称する少女とその従者。どちらも既に本当の名を捨てており、少女はその容貌から「卯ノ花」と呼ばれ、従者は「梔子(口無し)」を名乗るようになった。
○ 西洋の古い街並みをモデルにした、白基調の無人の街、それを見下ろせる巨大な洋館が彼らの「本丸」であり、しばしばそれは「石棺」に喩えられる。
○ 審神者双子のもう一つの可能性であり、卯ノ花は生まれることのなかった未結。生まれるに至った卯ノ花、即ち未結とその兄九繰の世界線においては、梔子は霊山の荒御魂(神)として人々に恐れられている。

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○生まれてすぐに神に返された双子の兄妹。二月の雪の日、霊山に棲む天狐に拾われ、彼と彼の弟妹、霊山の神を祀る神社の関係者らによって育てられた。
○狐兄曰く、双子が神に“返された”のは神の要望に基づくものであり、「人間にはどうしようもないこと」だという。が、九繰はこの出来事を「人間社会が自分と妹を不必要なものとして棄てた」と見なしており、人間不信、人間嫌いだったりする。
○数えで3歳の頃、守り刀として与えられた骨喰藤四郎、鯰尾藤四郎は最も信頼する存在。

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一歩踏み出す度に、コツ、と硬質な音が鳴る。
居城を土足で歩くことに、慣れぬと言えば主は「そう」と言って笑った。
聞けば、他の本丸は我等がよく知る姿をしていることが多いらしい。
純白の床。純白の、完璧に整えられた町。
見慣れぬ形の城だけでなく、城下の様子も随分と風変わりな此処へ呼ばれて来た当初は、
妖に化かされたのではと疑いすらもしたものだ。
 
「兄者ーっ、兄者は居らんか」
 
尤も、今尚その疑いが晴れたわけではない。
主は自らを死人であると明言したし、「執事」なる少年も何処となく、妖に似た気配がするのだ。
その本丸で、彼が今力を貸しているのは、
彼の兄が既に此処に居り、主と妙に親しげだったからに過ぎない。
少なくとも、当初はそうだった。
 
 
兄を呼びながら城内を当所なく歩いていると、不意に吐息のような声が聞こえた。
見れば僅かに開いた扉から、深紅の瞳が自分を見返している。
 
「……主か。兄者を見ておらんか」
「居るわ。だから、少し静かにして頂戴」
 
声を潜めて答えた少女が、扉を開けるよう促す。
無数の本に囲まれた部屋は、そういえば、自由に用いて良いと聞いた。しかし今見回してみると、見慣れない装丁が多い。
恐らくはその殆どが、国外の言葉で綴られたものなのだろう。
 
細い腕で車椅子の車輪を動かし、彼女は器用に進路を変える。
その先、部屋の中央に据えられた柔らかそうな長椅子の上に、捜していた兄の姿があった。
 
「刀も、夢を見るのかしら」
「夢?」
「……先程、呼ばれたから」
 
夢。夢など見た覚えがあっただろうか。
呼吸の音すらも聞こえない兄の寝顔を見ながらぼんやりと思い巡らせていると、「御免なさいね」と彼女は続けた。
意図が分からず、首を傾げる。
 
「……失礼。気に障ったのかと思って」
「いや。……ああ、そうだな。兄者は随分貴女の話をする」
「ワタシには貴方の話をするわ。どの名で貴方を呼ぶべきかは、決めかねているようだけれど」
「……忘れているのだろう」
 
どうかしら、と結論を濁したのは、恐らく心遣いなのだろう。
誰の目にも明らかなほど、兄は彼女の名を口にする。
喜ばしげに、愛おしげにそして、幾らか寂しげに。彼女も知っているのだろう。
 
「兄者は、貴女をとても慕わしく思っているのだな」
「そうねえ……貴方が仰るなら、そうなのかしら?」
「俺が? 何故」
「貴方以上の、彼の理解者はいないでしょう?」
 
間髪入れずに返された答えは、まるで自明の事を言うかのような妙な自信に満ちていて、
自分でも、僅かに気が緩むのを感じる。
引き締めねば、と口元に力を入れると、しかし其れも、些細な誤解に繋がってしまったようだ。
 
「いや。貴方が刀剣たちに、慕われる謂れはよく分かるのだ」
 
誤解を与えて済まないと、今度は此方が頭を下げる。
兄が此れほど彼女に執着しているようでなかったなら、自分もその輪に混ざってしまっていただろう。
そして其れは、ひどく心地が良いのだろう。
 
「貴方がそう、仰ってくださるのは嬉しいわ。有難う、薄……」
「……あ、主…?」
 
よもや主まで、俺の名を忘れたのではあるまいな。
引き攣った声で彼女の様子を覗うと、「いえ、」と一拍、間を埋める。
 
「薄緑で良かったかしら? 膝丸か、他の名の方が貴方のお好み?」
「いや、どちらでも良い。其の、どれもが俺の名だ。……貴女は、その名を気に入ってくれたのだな」
 
忘れられていたわけではなかった、そのためか、
あるいは、「薄緑」の名を思い入れてくれている、そのことへの喜びゆえか、
自然と声音が柔らかになる。
 
「ええ、美しいでしょう?」
 
その言葉に、少女然と輝かせた瞳に喜ばしいと思えども、
自分の名が美しいのかどうか―――「貴方に、よく似合っている」のかどうか、自身では判断付かないものだ。
―――否、彼女の言うことに、間違いなどは無いのだろう。
心から、素直に、そう口にしたのが分かったからこそ、頭に上る熱を隠すように、努めて冷静に矛先を変える。
 
「俺は、貴女の名も美しいと思うが」
 
兄がよく口にする、「卯の花」という彼女の呼称。
髪の色に、肌の色に、彼女が好んで纏う着物の色にも相応しく、そして
小さく可憐な花が集まり豪奢な装いを見せる春の花は、出逢って間もない此の目にも、彼女に似合うように見える。
 
「私の? ……あぁ、そうね。空木の花とは言い得てる。あれは名前ではないけれど」
「そうなのか? では、名は……」
「知りたいの?」
 
見上げる瞳に、体が強張る。
意識して合わせないようにしていた視線が絡み合うと、案の定、外せなくなった。
『おひいさまの顔を、まじまじと見るのはお勧めしないよ』―――此処に、来たばかりの頃、そう言っていたのは一振ではない。
無礼だから? 違う。違う、と、彼らは皆、言葉を揃えて返すのだ。
 
『引き摺り込まれてしまうから』
 
なんと不穏な表現だろう。しかし今、奈落に突き落とされたような感覚がした今であれば、
彼らの言葉を理解できる。そして自分も言うだろう。
 
―――兄者。
 
貴方は恐らく疾うに、其の最奥に居るのだな。
 
「薄緑?」
「ああ、…いや、済まない。不躾だった」
「構わないわ」
 
それほど長い時では無かったのだろう。
現へと引き戻された感覚に小さく息を吐くと、彼女は喉を鳴らして笑った。
「気にすることないのに」―――許されたことへの、安堵と受け取ったのだろう。
 
「……しかし、兄者は随分深く眠っているのだな」
「そのようね。疲れていたのかしら。薬研に相談してみるわ」
「済まない。兄者に代わって礼を言おう」
「気にしないで」
 
ワタシには、その程度しか出来ないから。
寂しげな声音に目を瞠ると、取り繕うように彼女は笑う。
 
「もし良ければ……伝えておいていただける? 後程相談があるって」
「ああ、分かった」
 
言うが早いか、彼はひどく彼らしい、きっちりとした足取りで踵を返す。
軽い挨拶すらも忘れぬ其の姿を見送って、彼女は長椅子に向き直る。
 
「お早うと、言って差し上げたらいいのに」
「うーん、君と話をしてみたがっていたからね」
「お優しいお兄様だこと。存知なかったわ」
「僕も、君があんなに優しい言葉で話すなんて知らなかったよ」
 
身を起こし、片腕を伸ばす。
結構、という彼女の言葉を遮るように、車椅子の肘掛を掴んで自分に寄せた。
 
「“薄緑”は、気に入った?」
「ええ、気に入っているわ。ワタシを選んでくれた刀は、どれも」
「へえ」
 
喉元まで込み上げた言葉を飲み込み、目を細める。
疑っているように見えたのだろう、一段と不愉快そうな視線に、笑い声が零れた。
君は何と、答えて呉れるだろう。
どんな顔で、僕を見るだろう。
 
もし、『僕も?』と訊いたなら。
 
「ごめんごめん、別に疑ってはいないよ。弟も言っていたけれど、君は刀によく慕われているし」
「そんなに早くから聞いていたの?」
「あんな何度も大声で呼ばれたら、流石に目も覚めるって」
 
其れはそうねと、肩を竦める。若干の間が空いたのは、誤魔化しを悟られたからだ。
訊いてくれたら、答えられるのに。
 
―――言ってくれたら、応えられるのに。
 
「ねえ、」
「ん?」
 
貴方の求めているものは何。
尋ねても、きっとはぐらかされるから。
 
「お疲れなら、部隊を考えていただくけれど?」
「いやいや、大丈夫だよ。本を読んでいたらつい、眠ってしまっただけだから」
「そう」
 
本なんて無かったじゃないの、と。
当然思う事くらい、彼も分かっているのだろう。
分かっていて吐く、其の嘘に、
何と応えて欲しいのだろう。
 
「では、もう一つ教えてくださる?」
「うん。べつに幾つでも構わないよ」
「刀の貴方も、夢を見るの?」
「夢?」
 
けれど、「どうして」と問われて、
 
「いいえ。ふと気になっただけ」
 
息を継ぐように嘘を吐く、自分も彼と変わらない。
だから、
 
「うーん……見ていたかなあ。忘れてしまったよ」
「そう」
 
返答の真偽も、分からないままなのだろう。
立ち上がり、背凭れの後ろに回られると、表情すらも見えなくなった。
 
「でももし、夢を見るのなら」
 
ゆっくりと、車輪が回り出す。
 
「君に笑ってほしいと思うよ」
「……それは、まるで、」
 
現のワタシが、笑わないみたい。
そう言って、彼女は作り物めいた笑顔を見せる。
 
彼女が心から笑ったところを、最後に見たのはいつだったかな。
長い記憶を手繰り寄せる。
溢してしまったように、不図。
何か見つかってしまったと、言わんばかりに、恥ずかしげに。
忘れる筈もない事なのに、思い出せないのは何故だろう。
 
「うーん。そうだ。ねえ、卯の花」
 
一度でも、向けられてみれば、
 
「此間、えーっと誰だったかな。……弟? 他にも誰かいたような……まあ、誰だったかは度忘れしたけど、バレンタインとかいう祭りの話を聞いたんだ」
「貴方は祝祭の名称よりも、薄緑の名を一つくらい好い加減覚えて差し上げたら如何。……其れで? 貴方もチョコレートがお望みなの?」
「チョコレート?」
「近年の我が国では、そういう風習があるそうよ。加州清光に頼まれたついで、ご所望ならば差し上げるけれど?」
「うーん。ついではいいかな。それより卯の花、君、花は好きだろう?」
「ええ」
「どの花が、一番?」
 
忘れずに、いられるのだろうか。
 
「何でも。何でも、好きなのよ。だから、“ワタシは花が好き”だと言うの」
「嫌いなものは?」
「特にないわ」
「僕も?」
「好きよ?」
 
―――やっぱり、どうでもいいんだね。
 
ありがとう、と口にして、嬉しいよ、と嘯いて、
重苦しい感情を、忘却という名の屑篭の中に放り投げる。
ほんの一瞬、見え隠れした“中身”の影に、
随分沢山、入るものだと感心した。

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ぼんやりと白く、浮いたような街に雪が降る。
はあ、と白い息を吐いて、青年は薄明りを眺めていた。
 
無人の街。
ジオラマのように美しく、街並みだけが整えられた本丸。
初めて此の“本丸”を見た時ーーー、
白く巨大な石棺に、身が震えたのを憶えている。
たった一人の少女の為に、幾百、千もの月日を掛けて、彼は、
 
青年を、刀剣男士と呼ばれる彼らを喚び出しておきながら、決して“主”と呼ぶことを許さない彼の少年は、
 
「根深いよねえ…」
 
想いを馳せた、その所為だろうか。
「如何されました」と、件の“少年”は音も無く、気配も無く、彼の背後で微笑んでいた。
落ち着いた柔らかな、しかし一切の隙が無い声にも、
戦に慣れた、更には付喪神ですらある自分達にも気取れない其の存在感にも、
いつの間にか慣れてしまった、青年は事も無げに返事をする。
 
「少し夢見が悪くてね」
 
何も包み隠さずに答えると、僅かに興味深そうな、面白がるような声音が返る。
 
「刀も夢を見るのですね。…如何様な?」
「僕の名前の由来は知っているだろう?」
 
ああ、と少年は頷いた。
幼子を斬る夢であったと、直様理解したのだろう。
駆け寄って来る幼子を……
 
「其れがね、近頃おひいさまの顔をしていて……参ってしまうよ」
 
“主”と呼ぶ相手を、斬る夢だ。
 
「成る程…」
「怒らないかい?」
「いえ。憤慨する方も、此の本丸には居られましょうが。俺は…」
 
神妙に頷いた彼は言う。
 
「心中お察し致します」
 
思わず「へえ」と、素っ頓狂な声が上がった。
少年がそう言うのなら、何か察するに足る共通点があるのだろう。青年も、其れを疑わない故に、
 
「君も幽霊の夢を見るのかい?」
 
最も単純に、共通点足り得そうな事を口にする。
其れに対して少年は、ゆるりと首を振って答えた。
降る六つ花を瞳に映し、愛おしそうに手の平に迎える。
 
「いいえ」
 
穏やかな声は、変わることなく。
 
「いいえ。お嬢様を斬りました」
「…実際に?」
「はい。夢でも、幾度も」
 
後に誰を斬っても、拭われることも上塗りされることもなかった手の平の記憶。
当然だ。あれは彼にとって、唯一、“人間を斬った”記憶なのだから。
言葉を探す青年に、ふわりと微笑んで彼は目を向ける。
 
「もう随分昔の話ですがね。昨今は、眠る必要もありませんので」
 
ですから…と、彼は言う。
 
「心中お察し致します」
「そういえば、君もおひいさまも死人だったねえ」
「…はい。尤も…正確には、俺は少し異なるものですが」
 
初めて聞いた言葉に驚き目を向けると、彼はまた、遠い記憶と向き直るように目を閉じていた。
恐らくは、手繰り寄せるまでもないのだろう。
今朝の出来事と同じくらいに、鮮明に思い出せるのだろう。
噛み締めるように紡がれるのは、
 
後悔、懺悔、恨言恨言恨言……、
 
「おっと、いけない」
 
はたと我に返って、少年は自分の頭に手をやった。
「髭切殿などに見られたら、俺が斬られてしまいます」ーーーそう言って、彼は再び笑う。
 
「……おひいさまは、知っているのかい?」
「さあ、如何でしょう。勘の鋭い方ですから、気付いてはおられるかも知れませんね」
 
からからからと、愉しげな。
其の姿はあまり、記憶になかった。
一頻り笑って、少年は「失礼」と、
まるで此れ迄の一時こそが、夢であったかのように言う。
 
「刀にも冷えは良くないと言います。どうぞ、お風邪など召されませぬよう」
「偶には、風邪でも引いて心配されてみたいとも思うんだけどねえ」
「叩き折りますよ」
 
間髪入らぬ返答に、反射的に謝罪の言葉が出る。
冗談だからなどという、言い逃れは決して許されないだろうことを肌で感じながら。
 
「風邪など召されずとも、お嬢様はいつも皆様を案じておられます」
「君は?」
「生憎、俺は気を長く持っている方では御座いませんので…」
 
持ち合わせている、回せる、遣える“気”は全て、お嬢様のものですと彼は笑った。

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