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「……まだ、悩んでいるのか」
縁側に腰を下ろし、細長い紙と筆を玩ぶ姿に声を掛ける。もう日が変わると付け足すと、「分かってるよ」と彼は答えた。
聞き慣れた、何処となく生意気な声音。
恐らくは堰を切ったように溢れ出すであろう、文句を聞くために横に座る。
「大体さ、」
彼の言葉の端々に、ほんの一言、二言、三言。
淡白な、少なくとも時折そう評される相槌を混ぜながら、止め処ない愚痴に耳を貸す。
嫌悪感を抱いたことはない。
「べつにこんなの、書かなくたって」
その愚痴は、評価の証だ。
彼の家族を、彼の生を、今を、
満たされていると、評価しているが故の。
「僕はお前がいればいいし」
彼の守り刀である、自分を、
「鯰尾とかはさ、『じゃあずーっと一緒にいられるように、お願いすれば良いじゃないですか』とか言うけど」
「…駄目なのか?」
「要らないだろ」
信ずるに値すると、評価している其の証。
「そうだな」
「骨喰は?」
若草に似た色の大きな瞳が、興味深そうに瞬いた。
何の話かと首を傾いで答えると、「何、書いたの」と同色の爪が短冊を指す。
すっかり失念していた其れを見て、思わず「ああ」と声を上げた。
「九繰が、無茶をしないようにと」
「書き直せ」
「……冗談だ」
信じられないと言いながら、下駄を突っ掛けて飾られた笹に手を伸ばす。
低い所に下がっているのは、其の殆どが短刀の。二枚、三枚と書き付けた者もいたようで、枝は重そうにしなっている。
徐々に伸ばされていく、未だ幼い主の腕。
ぴんと伸ばした其の指先は、いつか、恐らくは程なくして、自分の其れを越えるのだろう。
履いた下駄から踵を離し、天を仰ぐように、首を反らせて、
「………見つかんない」
不満げな呟きが、耳に届いた。
「当然だ。俺も書いていない」
「先に言え!」
乱暴に砂利を踏みながら、腹を立てても、しかし律儀に戻って来る。
何時も。
其方が此の身を手放せば、……恐らくは、考えた事も無いのだろう。
一度たりとも。其れこそが、
「俺の願いは、此の手に叶えられている」
此の頼りない幼子の、しかし誰よりも強い主君たる彼の、
守り刀で在ることが。
其の手に、活かされていることが。
今唯一の望みなのだと。
「……じゃあ、もうこれ書かなくて良くない?」
縁側に残された白紙の短冊。其の横に筆を並べて置くと、終わり終わり、と肩を回して
「骨喰、散歩行こう。見つかったら面倒臭いからさ」
出会った頃より随分と、大きくなった手が差し出される。
分かった、と頷いて、慣れた温かさを握り返した。
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不意の“その子”の訪れに、木々は喜び、身を震わせた。
木霊は口々に報せを伝え、便りを携えて風が駆ける。
人を拒み、人が忌避する夜の霊山を慣れた様子で歩く童子は、此の山を守る神の愛子。
だが人の身である彼は、今、自らが受けている歓迎を、露ほども知らないだろう。
囁かれる言葉を、歌われる声を、伝えたら何と答えるだろう。ふと思い、そして打消した。
今尚幼いと言える童子を、より幼い頃から見てきたからこそ、
「ふうん」と、然程の興味も無さそうな声が容易く想像出来るのだ。
無関心では、無いのだろう。只、其れを知らないだけだ。
蚊帳でも張っているかのように、自身に向く好感に彼は気付かない。捨て子だったという、其の為か…?
幾度か考えはしたものの、童子本人が無自覚な以上、答えなど出る筈もなかった。
「此処で、いいよね。何?」
だから、
木霊は口々に報せを伝え、便りを携えて風が駆ける。
人を拒み、人が忌避する夜の霊山を慣れた様子で歩く童子は、此の山を守る神の愛子。
だが人の身である彼は、今、自らが受けている歓迎を、露ほども知らないだろう。
囁かれる言葉を、歌われる声を、伝えたら何と答えるだろう。ふと思い、そして打消した。
今尚幼いと言える童子を、より幼い頃から見てきたからこそ、
「ふうん」と、然程の興味も無さそうな声が容易く想像出来るのだ。
無関心では、無いのだろう。只、其れを知らないだけだ。
蚊帳でも張っているかのように、自身に向く好感に彼は気付かない。捨て子だったという、其の為か…?
幾度か考えはしたものの、童子本人が無自覚な以上、答えなど出る筈もなかった。
「此処で、いいよね。何?」
だから、
骨の折れる事だろう、と彼は思った。
「ああ」
倒木に腰を下ろす彼の横に立てば、彼の気を、手を引こうと待ち構えているような夜闇が見える。
其れを受けて、彼が其の中に身を投げようとしたのは何時だったか。
――否、あの時彼の気を引いたのは……
「……もしかしてさ、怒ってる?」
珍しく、話があると声を掛けられ、誰も寄り付かない場所へ来て――此の場所は、童子自身もよく覚えている――、風の音すらも止んだ沈黙を、童子はそう推論した。
“あの時”。意図は問われたが、答えると彼は怒るような事はなかった。けれど、口にしなかっただけで、本当は、
「違う」
言葉少なに、否定する。恐らく共に思い起こした、“其れ”はもう、過ぎた事だ。
「だが、関係はしている」
視界の端で、童子の背筋が伸びた気配がした。
お説教は苦手だと、彼は昔からよく口にする。
今から口にすることは、彼の苦手なお説教だろうか。
其れでも、いつか伝える必要があった。
「九繰」
「はい」
「……怒ってはいない」
「分かってるよ…」
強張った返事に、僅かな笑い声が漏れる。其れを聞くと童子も漸く、肩の力が抜けたようだった。
“何時も通り”、今は仕えるべき主君の左側に腰を下ろす。
彼が今更、許可など求める事もない。彼の行為を無礼だと、憤ったのは誰だっただろうか。
「ただ……頼みがある」
「頼み?」
珍しいねと、童子は首を傾げた。
「ああ」
倒木に腰を下ろす彼の横に立てば、彼の気を、手を引こうと待ち構えているような夜闇が見える。
其れを受けて、彼が其の中に身を投げようとしたのは何時だったか。
――否、あの時彼の気を引いたのは……
「……もしかしてさ、怒ってる?」
珍しく、話があると声を掛けられ、誰も寄り付かない場所へ来て――此の場所は、童子自身もよく覚えている――、風の音すらも止んだ沈黙を、童子はそう推論した。
“あの時”。意図は問われたが、答えると彼は怒るような事はなかった。けれど、口にしなかっただけで、本当は、
「違う」
言葉少なに、否定する。恐らく共に思い起こした、“其れ”はもう、過ぎた事だ。
「だが、関係はしている」
視界の端で、童子の背筋が伸びた気配がした。
お説教は苦手だと、彼は昔からよく口にする。
今から口にすることは、彼の苦手なお説教だろうか。
其れでも、いつか伝える必要があった。
「九繰」
「はい」
「……怒ってはいない」
「分かってるよ…」
強張った返事に、僅かな笑い声が漏れる。其れを聞くと童子も漸く、肩の力が抜けたようだった。
“何時も通り”、今は仕えるべき主君の左側に腰を下ろす。
彼が今更、許可など求める事もない。彼の行為を無礼だと、憤ったのは誰だっただろうか。
「ただ……頼みがある」
「頼み?」
珍しいねと、童子は首を傾げた。
拍子抜けした様子が、彼に、童子にとって最も信頼すべき刀に、先を促す。
「俺は、九繰の守り刀だ。主がそう、言った様に」
「うん」
確かめるような言葉に、首肯いて答える。忘れもしない、差出人不明の三つのお祝いが届く少し前。審神者と、其れに応える神として、こうして言葉を交わす前から共に在った。
彼は、
「応えてきた…と、思う」
「うん。ありがと、骨喰」
骨喰だけは、信じてる。嘘も飾りもない其の言葉に、控え目に彼は笑む。
「俺は、九繰の守り刀だ。主がそう、言った様に」
「うん」
確かめるような言葉に、首肯いて答える。忘れもしない、差出人不明の三つのお祝いが届く少し前。審神者と、其れに応える神として、こうして言葉を交わす前から共に在った。
彼は、
「応えてきた…と、思う」
「うん。ありがと、骨喰」
骨喰だけは、信じてる。嘘も飾りもない其の言葉に、控え目に彼は笑む。
だが、同時に。
自分が無ければ、そもそも彼は…九繰は、
「……嫌になった?」
答えが返る前に、童子は口にする。「ごめん」と。
「違う」
「本当?」
「共に在ると言った。俺は、お前が荼毘に付される時なら、再び焼かれても構わない」
「だめだ。嫌だ。僕は、僕は骨喰にだけは忘れられたくない」
膝の上で握り締めた拳と声が微かに震える。
小さく、刀は息を漏らした。
「分かった。待とう」
遠い未来の話だなどと、感じたことは一度もない。戦争などとは本来無縁の筈なのに、此の人の子は戦場に身を置き、何より此の霊山という、生死の狭間で生きてきた。
何時、死んでもおかしくはない。互いに、そう思うが故に、
「だが、一刻でも永く…共に、在りたいと思っている」
「うん」
見据える先には、あの深い闇。
記憶を失くすのは其れほどに辛いのかと、此の崖から飛び降りようとした。引き離されるなら死んだ方がマシだと言い、事実飢えて死に掛けるまで、部屋に籠城した事もある。
同世代の子供たちと比べ、彼は遥かに“強い”だろう。肉体的にも、精神的にも、ともすれば大人にすら勝る。
故に、危ういのだと知った。不揃いに、不規則に、積み上げられた足場は脆く、揺らがない時の方が珍しいから。
「人の身を得て、俺が手を伸ばせる範囲は広がった」
「うん」
「刀としてだけでなく、人としても九繰を守れる。だからこそ、」
静かに紡いでいた言葉が、ふ と途切れる。
グレーの手袋に覆われた、人間と同じ形の手の平に目を落とし、一言一句、壊物を扱うかのような口調で彼は続けた。
「手が、届かない事を…恐れるようになった」
只人に、扱われるままの存在であれば。自我を持ち、自由に動く四肢を持つことが無ければ、決して思いはしなかっただろう。
此れも致し方ない事と、何処かで諦めがついたのだ。伸ばせる腕が無いのだから。
「約束をして欲しい」
「うん」
どんな。頷いてから、首を傾げる童子の癖。聞き入れるつもりはある、という其の意思表示に幾らかの安堵を覚えたか、幼い主に向き直る。
「一つ、明らかに危険だと分かっている事は避けて欲しい」
大きく瞬きをした後で、無言で童子が指をさす。その方向に深く頷いた。
「戦場は?」
「構わない」
最も危険であろう戦場は、彼には寧ろ比較的安全とも思えた。戦いの場に相応しい身のこなしを彼は身に付けている上に、其処には刀の目が届く。どれも忠義に厚い刀達だ。誰かは、彼を守れるだろう。
「明らかに危険…じゃないかもしれない時」
「仕方ない」
童子が指を立て、条件を確認する。事前に判別可能な危険など、実際殆ど無い事を。
避けて欲しいが、仕方ない。童子は「分かった」と答えた。
「其れと、……未結が関わる場合」
二つ目に、約束をして欲しいこと。そう口に出した瞬間に、童子の表情が険しくなる。
未結――唯一血の繋がった妹が、危険に晒されるのならば、自身の生命など容易く捨てる。誰に、何を言われても、そうだろう事は今更確かめるまでもない。
其れでも何も言わないのは、彼を、此れ迄自分を守り続け、傍に在り続けてくれた唯一の刀、骨喰藤四郎という守り刀を深く信頼しているからに他ならない。
聞くだけは、聞く。続けて。無言の圧に応えるように、刀は一度頷いた。
「何に替えても、俺と兄弟が未結を守る。九繰は、九繰の身を守って欲しい」
其の時は、自分の手では守れないかもしれないから。
「…絶対?」
もう一度、今度はより深く頷く。“主”の目が不安げに揺れるのは、何時も彼の妹を案ずる時だ。軽い、羽のように無垢で、自由奔放な幼姫。彼岸と此岸の境目を、何時越えるかも分からない程。
「約束する。不安なら、兄弟も呼んで尋ねよう」
「…ん、いや、いいよ。大丈夫、分かる」
彼の兄弟刀であり、彼女の守り刀でもある小脇差。容易く想像出来た返答に、どちらからともなく笑い声が溢れた。
「絶対、何で訊かれるのか分からないでしょ。鯰尾」
「同感だ」
幾分軽くなった雰囲気の中、童子は「分かった」と、また頷いた。
「他には?」
「其れだけだ」
「そっか。…うん、約束する」
「…済まない」
立ち上がった童子の首が傾いた。何で謝るの、問い掛ける目に答えを返す。
自分が無ければ、そもそも彼は…九繰は、
「……嫌になった?」
答えが返る前に、童子は口にする。「ごめん」と。
「違う」
「本当?」
「共に在ると言った。俺は、お前が荼毘に付される時なら、再び焼かれても構わない」
「だめだ。嫌だ。僕は、僕は骨喰にだけは忘れられたくない」
膝の上で握り締めた拳と声が微かに震える。
小さく、刀は息を漏らした。
「分かった。待とう」
遠い未来の話だなどと、感じたことは一度もない。戦争などとは本来無縁の筈なのに、此の人の子は戦場に身を置き、何より此の霊山という、生死の狭間で生きてきた。
何時、死んでもおかしくはない。互いに、そう思うが故に、
「だが、一刻でも永く…共に、在りたいと思っている」
「うん」
見据える先には、あの深い闇。
記憶を失くすのは其れほどに辛いのかと、此の崖から飛び降りようとした。引き離されるなら死んだ方がマシだと言い、事実飢えて死に掛けるまで、部屋に籠城した事もある。
同世代の子供たちと比べ、彼は遥かに“強い”だろう。肉体的にも、精神的にも、ともすれば大人にすら勝る。
故に、危ういのだと知った。不揃いに、不規則に、積み上げられた足場は脆く、揺らがない時の方が珍しいから。
「人の身を得て、俺が手を伸ばせる範囲は広がった」
「うん」
「刀としてだけでなく、人としても九繰を守れる。だからこそ、」
静かに紡いでいた言葉が、ふ と途切れる。
グレーの手袋に覆われた、人間と同じ形の手の平に目を落とし、一言一句、壊物を扱うかのような口調で彼は続けた。
「手が、届かない事を…恐れるようになった」
只人に、扱われるままの存在であれば。自我を持ち、自由に動く四肢を持つことが無ければ、決して思いはしなかっただろう。
此れも致し方ない事と、何処かで諦めがついたのだ。伸ばせる腕が無いのだから。
「約束をして欲しい」
「うん」
どんな。頷いてから、首を傾げる童子の癖。聞き入れるつもりはある、という其の意思表示に幾らかの安堵を覚えたか、幼い主に向き直る。
「一つ、明らかに危険だと分かっている事は避けて欲しい」
大きく瞬きをした後で、無言で童子が指をさす。その方向に深く頷いた。
「戦場は?」
「構わない」
最も危険であろう戦場は、彼には寧ろ比較的安全とも思えた。戦いの場に相応しい身のこなしを彼は身に付けている上に、其処には刀の目が届く。どれも忠義に厚い刀達だ。誰かは、彼を守れるだろう。
「明らかに危険…じゃないかもしれない時」
「仕方ない」
童子が指を立て、条件を確認する。事前に判別可能な危険など、実際殆ど無い事を。
避けて欲しいが、仕方ない。童子は「分かった」と答えた。
「其れと、……未結が関わる場合」
二つ目に、約束をして欲しいこと。そう口に出した瞬間に、童子の表情が険しくなる。
未結――唯一血の繋がった妹が、危険に晒されるのならば、自身の生命など容易く捨てる。誰に、何を言われても、そうだろう事は今更確かめるまでもない。
其れでも何も言わないのは、彼を、此れ迄自分を守り続け、傍に在り続けてくれた唯一の刀、骨喰藤四郎という守り刀を深く信頼しているからに他ならない。
聞くだけは、聞く。続けて。無言の圧に応えるように、刀は一度頷いた。
「何に替えても、俺と兄弟が未結を守る。九繰は、九繰の身を守って欲しい」
其の時は、自分の手では守れないかもしれないから。
「…絶対?」
もう一度、今度はより深く頷く。“主”の目が不安げに揺れるのは、何時も彼の妹を案ずる時だ。軽い、羽のように無垢で、自由奔放な幼姫。彼岸と此岸の境目を、何時越えるかも分からない程。
「約束する。不安なら、兄弟も呼んで尋ねよう」
「…ん、いや、いいよ。大丈夫、分かる」
彼の兄弟刀であり、彼女の守り刀でもある小脇差。容易く想像出来た返答に、どちらからともなく笑い声が溢れた。
「絶対、何で訊かれるのか分からないでしょ。鯰尾」
「同感だ」
幾分軽くなった雰囲気の中、童子は「分かった」と、また頷いた。
「他には?」
「其れだけだ」
「そっか。…うん、約束する」
「…済まない」
立ち上がった童子の首が傾いた。何で謝るの、問い掛ける目に答えを返す。
「本当は…其の全てから、九繰を守るべきだと思う。出来ないのは、出来ない恐れがあると言うのは、俺の力が足りない所為だ」
だから、済まないと言った。
膝を土台に頬杖をつき、答えを聞いた童子は二、三、瞬きをする。
「鯰尾は」
ぽたりと落ちる、妹を守る刀の名。
「全部から、守るって言うだろうね。未結のこと」
「そうだな」
「良かった」
柔らかな笑みを見て、続く言葉を見つけられずに押し黙る。
しかし表情同様に、柔らかな声で紡がれた言葉に思わず「何」と声が上がった。
「あれ、もしかして骨喰も?」
「いや、主を監禁して守る趣味はない」
「だよね、良かった」
「兄弟が…甚大な誤解を受けている気がする」
「誤解かなあ」
「………」
何故、答えに窮しているのだろう。自分への問い掛けに自ら返した答えは、見なかった事にした。
「うん、別に責めるつもりはないよ。未結はそのくらいじゃないと、どっか行っちゃいそうだし。鯰尾で良かったと思ってる」
「そうか」
「うん、でも僕には合わないし、それで良いなら最初から全部骨喰に任せる。一緒に鍛錬なんかしない。痛いし」
「今日も吹き飛ばされたな」
「上達するのは受け身ばっかだ」
「悪くはない」
「そうだけどさー…」
強く、なれているだろうか。
彼らの主として、相応しく在れているだろうか。
自分には、
「骨喰は、強いから」
彼の所有者であるだけの、価値があるだろうか。
「俺の、身に起こった全てのことは」
手繰る記憶は、すぐに途切れる。
十年にも満たない月日は、失くした記憶に比べればあまりにも短く、其れでも、
「九繰を守るためにあったのだと、分かった」
幼い主君に仕え、彼を守り、共に歩む中で、
今尚思い出せずにいる、自分自身を取り戻したような感覚があった。
「俺は、」
“守り刀”だと、はっきり口にする度に、
いつからか自らの価値を深く噛み締めているような、安堵と誇らしさを覚えてきた。
「九繰を守れる、強い刀で良かったと思う」
「……うん。ありが―――」
条件反射のように口をつく、感謝の言葉がくしゃみに変わる。
主君の肩から上着を被せ、すぐに立ち上がり、手を差し出す。
「済まない、長く居すぎた。…戻ろう」
「平気だよ」
べつに、と笑って答えながらも、其の手を取って力を込めた。
風もないのに、枝葉が揺れる。
一時の、別れを惜しむ山の声は、童子の耳には届かない。
「九繰」
「んー?」
慣れきってしまっているゆえに、
其の影はすぐに其処から消えた。
Q01「こんにちは、ウィズです。急だけれど、これから幾つか質問させてもらうね。よろしくお願いします。早速だけど、先ずは名前を教えて?」
A01「九繰(くくり)。一応、雛(ひいな)が名字だよ。よろしく」
Q02「性別……は、一応、聞いておこうかな」
A02「見た通り、男性だね」
Q03「年齢は? それと分かれば、誕生日も教えてくれる?」
A03「ごめん、どっちも分かんない。僕ら、捨て子だから」
Q04「そっか、ごめんね。えぇと身長……は、そんなに高くないみたいだけど……」
A04「僕はこれから伸びるの。これでも、5尺ぐらいは一応あるんだから」
Q05「ぁはは、そっか。んっと、俺はあんまり聞き覚えないけど、「サニワ」さん、なんだよね?」
Q05「ぁはは、そっか。んっと、俺はあんまり聞き覚えないけど、「サニワ」さん、なんだよね?」
A05「そう、審神者。今はそっちが本業みたいになっちゃったけど、元々僕は神主みたいなものだよ。兄に任されたから」
Q06「お兄さんもいるの? 妹さんは、聞いてるけど」
A06「兄っていうか、育ての親っていうか……化け狐なんだけど。あまり面識はないけど、その兄が僕らの他に育てた狐の子が二人いて、一応そっちも姉と兄になるかな。血が繋がっているのは、双子の妹、未結だけ」
Q07「なるほどね……。このまま、少し友達のことを聞いていい? 俺はあんまりいないんだけど……九繰くんは、社交的そうだし多いのかな?」
A07「いや、全然。僕、そんな社交的に見える? 刀を友達と言うなら別だけど……それっぽいのも、いるけど。そんなに多くないよ。つい、未結を優先させちゃうし」
Q08「そうなんだ。俺は刀が友達でも良いと思うけど……俺の友達も、似たようなものだし。じゃあ、親友、みたいな人はいる?」
A08「刀なら、骨喰……骨喰藤四郎だと思うけど(笑)。親友っていうか、相棒っていうか。人間なら……人間の括りに入れて良いのか分かんないけど、泉くんとはよく喋るよ。未結が妙に懐いてるし」
Q09「泉くん……俺、喋ったことないかもしれない。じゃあ、えーっと……これ、聞いて良いのかなあ? 恋人とか、いる?」
Q09「泉くん……俺、喋ったことないかもしれない。じゃあ、えーっと……これ、聞いて良いのかなあ? 恋人とか、いる?」
A09「迷ってから聞くまでが速くない? いないけど(笑)」
Q10「ん、そんなに迷うことでもなかった(笑)。じゃあ、どんなタイプの子が好き? 初恋の話とかあれば、是非教えて欲しい、かな」
Q10「ん、そんなに迷うことでもなかった(笑)。じゃあ、どんなタイプの子が好き? 初恋の話とかあれば、是非教えて欲しい、かな」
A10「意外とぐいぐいくるね……。どんな……いや、分かんない。妹のお守で手一杯……あ、でも構ってないと落ち着かないから、一人で生きていけそうな人とはあんまり合わないかも」
Q11「あ、ちょっと意外かも。しっかりした子じゃないと好きにならないかなって……えぇと、ごめん、次だね。憧れの人とかはどう?」
Q11「あ、ちょっと意外かも。しっかりした子じゃないと好きにならないかなって……えぇと、ごめん、次だね。憧れの人とかはどう?」
A11「くーにぃ……さっき言った、育ての親はちょっと憧れる。憧れたところで、届くとは思ってないけど」
Q12「そうかな? 九繰くんは器用だし、何にでもなれちゃいそうなんだけどなぁ……ま、いいか。それじゃあ、九繰くんが信頼してる人って、どんな人?」
Q12「そうかな? 九繰くんは器用だし、何にでもなれちゃいそうなんだけどなぁ……ま、いいか。それじゃあ、九繰くんが信頼してる人って、どんな人?」
A12「未結、骨喰、くーにぃ。あとは長谷部や蜻蛉切、蜂須賀も頼れるね。能力ってことなら、刀は大体信頼してるよ。僕らは、良い刀に恵まれてる」
Q13「いいなあ。いいことだね。えーっと……ごめん、言いにくいかもしれないけど、嫌いな人とか、苦手な人っているかな? どんなタイプの人が苦手?」
Q13「いいなあ。いいことだね。えーっと……ごめん、言いにくいかもしれないけど、嫌いな人とか、苦手な人っているかな? どんなタイプの人が苦手?」
A13「嫌い、は……基本、未結に危害を加えるような奴以外はどうでもいいけど。苦手なタイプも、あるかなあ…? ちょっと思い付かないや。ごめんね」
Q14「ううん、ありがとう。じゃあ気を取り直して、好きな物を聞いていこうかな。鴉が好きなんだっけ?」
Q14「ううん、ありがとう。じゃあ気を取り直して、好きな物を聞いていこうかな。鴉が好きなんだっけ?」
A14「そう。賢いし、格好良い。鳥は大体好きだけど、中でも鴉は別格かな」
Q15「黒い色も、綺麗だよね」
A15「うん、黒くて艶やかなのが好きだよ。獅子王の拵とか、結構好き。青も好きだけど。少し暗めの色か、深めの色が……いや、澄んだ空の色や水の色も好きだから、青っぽければ何でもいいのかも」
Q16「空の色に水の色かあ。……そういうのが綺麗に見える場所も、好きなのかな?」
A16「木の上とか?(笑) 今剣と、よく登るよ。高い所は、わりと好きかも」
Q17「あぁ、良いよね高い所。俺も好き。食べ物の好みとかはどう?」
A17「あんまり拘りは無いかな。極端な味のものは好きじゃないけど、好き嫌いもあんまりないし」
Q18「なるほどねー……拘りあるのは、着る物くらいかあ」
A18「似合えば何でも着るけどね。でも、この服は特別。出陣しようって思ったら、やっぱ一番テンション上がる服を身に着けないとね」
Q19「袖に鴉が飛んでるね。後ろは三日月? ……変わった服だけれど、和洋折衷、っていうのかな?」
Q19「袖に鴉が飛んでるね。後ろは三日月? ……変わった服だけれど、和洋折衷、っていうのかな?」
A19「そうなると思う。襟はセーラーだし、でも振袖だし。半ズボンは、動き易そうだなって思って選んだけど、高下駄だし。まあ、ブーツの時もあるんだけど。軍帽だって、動くだけなら無い方が良いかもしれないしね。そうなると、髪も短い方が良いのかな」
Q20「鳥の尾羽みたいで、格好良いと思うよ。普段からその格好?」
Q20「鳥の尾羽みたいで、格好良いと思うよ。普段からその格好?」
A20「ううん。出陣の時とか……すぐ出陣出来るようにしておいた方が良い時とか。神社の仕事の時はこんなに厳つくないよ。色だってもっと明るいし」
Q21「でも、下駄の踵の所には、鴉の絵が入っているんでしょう? そういえば、ネイルとかは……ぁ、」
Q21「でも、下駄の踵の所には、鴉の絵が入っているんでしょう? そういえば、ネイルとかは……ぁ、」
A21「うん、大体碧と黒。もう少しデコることもあるけど、あんまりストーンとか貼っても邪魔になるし、普段は塗るだけだね」
Q22「結構色々、矢継ぎ早に聞いたけど……疲れてない? もう少しで終わろうと思うけど……そうだなあ、九繰くんの趣味とか、日課とか。あったら聞かせてもらおうかな」
Q22「結構色々、矢継ぎ早に聞いたけど……疲れてない? もう少しで終わろうと思うけど……そうだなあ、九繰くんの趣味とか、日課とか。あったら聞かせてもらおうかな」
A22「馬に乗るのが好きなんだ。自分で乗るものだから、世話は自分でしてるよ。強いて言えば、それが日課。会議とかは仕事になるだろうし。他には……楽器も好きだよ、ピアノとか。弾けば未結が喜んでくれるし」
Q23「「九繰のピアノも歌も好き」って、そういえば言っていたね。特技になるのかな?」
Q23「「九繰のピアノも歌も好き」って、そういえば言っていたね。特技になるのかな?」
A23「剣振る方が得意だけどね。そっちは長谷部たちに止められるけど。悪い癖なんだ、頭に血が上り易くて」
Q24「それ、意外って言われない?」
Q24「それ、意外って言われない?」
A24「言われる。もっと温厚だと思った、とか」
Q25「だよね、俺も思うもの。…うん、もうそろそろ纏めていこうか。今、夢とかはある?」
Q25「だよね、俺も思うもの。…うん、もうそろそろ纏めていこうか。今、夢とかはある?」
A25「夢かあ。何だろう……僕は未結が、笑っていてくれれば良いんだ。歴史にも、正直興味ない。歴史改変主義者と戦ってさ、その先の未来で、未結は笑っていてくれるかな?」
Q26「どうかな。俺には何とも言えないけれど……でも、本当に大事な妹さんなんだなあ。羨ましいよ。俺、家族とかいないし」
Q26「どうかな。俺には何とも言えないけれど……でも、本当に大事な妹さんなんだなあ。羨ましいよ。俺、家族とかいないし」
A26「掛け値無しに、大事だね。でも、べつに家族だから大事だとかそういう事ではないと思うよ」
Q27「そっか。そうだね。え、っとそれじゃあ、うー……ん、ごめんね。さっきからちょっと、聞かれたくないこと聞いているかも知れないけど……九繰くんにとって怖いこと、って、」
Q27「そっか。そうだね。え、っとそれじゃあ、うー……ん、ごめんね。さっきからちょっと、聞かれたくないこと聞いているかも知れないけど……九繰くんにとって怖いこと、って、」
A27「未結が……言うまでも、無いよね」
Q28「うん、ごめんね。ありがとう。それじゃあ、折角だから君の刀たちに何か一言貰おうかな?」
Q28「うん、ごめんね。ありがとう。それじゃあ、折角だから君の刀たちに何か一言貰おうかな?」
A28「刀に? うーん、何だろう。……そうだなあ。僕はまだまだ未熟だけど、お前達を信じる事だけは、出来てると思う。だから、これからも宜しく…って、改めて言うの凄い恥ずかしいんだけど」
Q29「あはは。でも、大事なことだよ。妹さんにも言っとく?」
Q29「あはは。でも、大事なことだよ。妹さんにも言っとく?」
A29「それは、いいよ。未結とは繋がってる。何処にいても、何を思ってても。だから、平気」
Q30「ん、分かった。じゃあ、これで質問は終わり。どうもありがとう、楽しかったよ。お疲れさま」
Q30「ん、分かった。じゃあ、これで質問は終わり。どうもありがとう、楽しかったよ。お疲れさま」
A30「そっちこそ、急に呼び出されて適当に質問してなんて振られて、お疲れでしょ? 有難うね」
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